「キョトンとしやがって。もう忘れたのかよ? 海馬、大丈夫?」
「わっ……忘れてません! 海馬もいたって正常です!」
「あ、そ」
口角を上げて薄く笑いつつ、堂々と腰かけていた下駄箱の横にある共用の傘立てから、水崎先輩が長い脚を伸ばして立ち上がった。
こんな場所でぼうっと座って、誰かと待ち合わせをしているのかな。それとも、先輩もきょうが三者面談なのだろうか。いろいろ“やばい”という人の親御さんって、いったいどんな方だろう。
「阿部佳月はこれから面談かなんか?」
さっきまでわたしを見上げていた顔が、今度はずいぶんと上のほうにあって、淡々と声を降らせた。
「あ、はいっ。ちょうどいまから……」
「へえ」
自分から聞いておきながらまったく興味のなさそうな返事をする。
「そりゃ、ガンバッテ」
そしてこれまた興味なさげな、1ミリも感情のこもっていないせりふを残すと、長い脚の先っちょにくっついている黒のスニーカーを前に出そうとした。
このまま帰ってしまうのかと思うと、なんとなく、いてもたってもいられなかった。
「あのっ、み……水崎先輩!」
馴れ馴れしく呼んでいいものか悩んだけれど、だって、それ以外になんと呼べばいいのかもわからないので、しょうがない。



