アイ・ラブ・ユーの先で



「あ、お姉ちゃん、やっと帰ってきた」


悪気がなさそうに顔を上げる。実際、侑月にはなんの悪気もないのだと思う。

昔から、人を嫌ったり、妬んだり、疎ましがったり、蔑んだり、そういうおどろおどろしい感情は、いっさい持ちあわせていないコだ。

それは侑月が周りからとても愛されて、かわいがられて、大切にされて、育ってきたからなのだろう。

わたしも侑月に対してそうしてきたうちのひとりだと思っている。
侑月は、愛された分を、同じように愛して返してくれる。


「どうしたの? さっきまで友達と電話してなかった?」

「あれ、聞こえてた?」

「そりゃ、あんなでっかい声で楽しそうにしゃべってたらね」

「ひやー、恥ずかしい」


あまりそうは思っていなさそうに言い、侑月は両頬を自分の手のひらで覆った。


侑月が小学生だった去年までひとつにまとまっていた姉妹の部屋は、妹のほうが中学に入学するのと同時に、つまり本当につい最近、ふたつに分裂したばかりだ。

もともと12畳あったこの部屋は、真ん中の引き戸を使って6畳ずつに分けることができる。

わざわざそれをひとつのままにしたがっていたのは、ずっと侑月だった。お姉ちゃんといっしょがいい、と言って。


自分で言うのもなんだけど、侑月はたぶん間違いなく、かなりのお姉ちゃん子だと思う。