なにを話したのか、いっしょになにをしたのか、あまりに幼かったせいで、記憶の輪郭はすでにおぼろげだ。
それでも、覚えている。
あの子に会っているあいだだけは、さみしい気持ちがすっかり消えてしまっていたこと。
まぎれもなく幸福な時間だったこと。
わたしが退院する日、とても大切な、約束を交わしたこと。
『――佳月、また、会おうな』
そう。
あの子にもらった青いティラノサウルスが、あのときからずっと、わたしのお守り。
『また……会えるの?』
『うん。ティラノサウルス、俺があげたやつ、わかるところにいつもつけといて。そしたら俺が、絶対、佳月のこと見つけるから』
『うん、わかった! つけとくから、ぜったい、見つけてね。約束だよ』
『うん、約束』
あんなちっぽけな、幼い日の戯言なんか、あの子はもう忘れ去っているかもしれない。きっと忘れ去っているだろう。
そうだとわかっていながら、どうしても、もういちど会いたくて。
たぶん、幼すぎてちゃんと言えなかったと思うから、ありがとうを伝えたくて。
だからわたしは、いつまでたっても、いまでも、鞄のいちばん目立つところに、ばかみたいに、ティラちゃんをぶら下げ続けている。



