たまらず、地面を蹴る。
手首を掴んだ瞬間、触れた場所から、とてつもなく大きな震えが伝わってきた。
「昂弥……せんぱい」
それは、思わず、わたしのほうが身がすくんでしまうほどで。
「俺にはあの男の血が流れてるんだよ。どれだけ浄化しようにも、絶対に消えてくれないもんが、俺のなかにある。あんなに憎んだ父親とまったく同じ形をした手で、本当はずっと……おまえに触れるのが、怖くてたまらなかった」
ずるり、と。
床に溶けるように崩れた大きな体を、どんなに不格好でも、どんなにへたくそでも、懸命に抱きしめた。
なんと言えばいいのか、なにを伝えたらいいのかさえわからないまま、指先にこめた力だけは絶対に緩めないようにと、いまはとにかく必死だった。
昂弥先輩がわたしに触れられないのなら、
わたしがその分だけ昂弥先輩に触れるから、
だから――
「昂弥は間違いなく、うちの子どもだよ」
突然、ぽとんと、先輩とわたし、どちらのものでもない声が落とされる。
「たしかに血の繋がりはないに等しいのかもしれない。でも、バイクの乗り方も、おいしいものの力も、僕がおまえに教えたことだよ。笑ったとき目尻にできる皺も、よく似てるじゃないか。僕らが親子だっていう共通点が、ほかにもたくさん、あるじゃないか」
なおも震えながら床にうずくまる先輩の前に、白い封筒が差しだされる。
いくつも、いくつも、重ねられていく。
「昂弥。これは、毎月ずっとおまえから渡されていたお金だ。子どもは、親に、こんなことをしなくていいんだ。わかるだろう?」
腕のなかにいる先輩が音もなく流すあたたかいしずくを、じんわりと、胸の真ん中あたりに感じた。