「なんとなくそうなのかと思ってたんだけど、昂弥がなにも言わないから、ずっと確信がなくてね。迷ってたけど、これで法的な措置を取る決心がついた。勇気をもって話してくれて、本当にありがとう」
「あの、昂弥先輩のこと……助けて、くれますか」
「うん、大丈夫だよ。これ以上、昂弥の人生がほかの誰かに搾取されないようにする手段がね、いろいろあるんだ」
さっきのコワイ目が嘘のような、とびきり優しい微笑み。
こんなに優しいのに、とても力強くて、泣きたいくらい安心してしまう。
ああ、もっと早くにここへ来て、打ち明けていればよかった。
「だから実の父親のことについては僕たちに任せてほしい。佳月ちゃんにもつらい思いをさせてしまってごめんね。それでも、こうして昂弥に会いに来てくれて、ありがとう」
おもいきりかぶりを振った。
ぬるい謙遜じゃなく、本当の否定だった。
麦茶のおかわりを持ってきてくれたお母さんが再びソファに座ったのを確認すると、お父さんはぽつり、ぽつりと語りはじめた。
それは、わたしの知らない、彼と、彼の家族の話。
「昂弥とはじめて会ったときのことは、いまでも忘れられない。いとこのあゆみちゃんがけっこう大変な男とのあいだに子どもを産んだってのは、親戚どうしの噂話で、いちおう聞いてはいたんだけど」
しゃべり好きなおじさんとおばさんってどこにでもいるだろう、とおどけたように言われる。
そうしたら、お母さんが「いまはあなたがそうなんじゃない?」なんて横やりを入れるので、緊張していた体がなんだか少しだけほどけた気がした。
「こんな小さな子どもにこんな目をさせるくらいなら、いっそ産まないであげたほうがよかったんじゃないかって、昂弥をはじめて見たとき、僕は咄嗟に思ってしまうくらいだった」
お父さんが昂弥先輩と最初に会ったのは、いとこのあゆみちゃん――つまり、昂弥先輩にとって産みの母親だというその人が、亡くなってしまったあとだという。



