アイ・ラブ・ユーの先で



ぴしゃりと、強い声が顔面にむかってまっすぐ飛んできた。

それはさながらぶたれたような衝撃で、触れられてもいないのに、なぜか頬がじんじんと痛い。


「こっちはね、いま、佳月の都合なんてひとっつも聞いてないわけ!」


あたりにいた生徒がじろじろこっちを見ていることもかまわず、仁香さんはなおも泣きながら訴えた。


「なにができるとか、できないとか、自分が何者だとか……そういうことをウダウダ考えてるうちにね、いちばん大切なものが、簡単に消えちゃうんだよ。わかってる?」


ねえ、と肩を揺さぶられ、体のなかの水分がシャッフルされたら、やっとじわじわ涙腺が緩みはじめた。


「昂弥にとって、どれほど“阿部佳月”が大切な存在だったか……あいつがあんたを、どんなに宝物みたいに思って生きてきたのか、知らないでしょう。昂弥にとっての“阿部佳月”の価値を、佳月が勝手に決めないで」


仁香さんはわたしの肩を掴んだまま、懇願するように頭を垂れた。
細かめのウェーブのかかった、長い黒髪が、セーラー服の上をするするとすべっていく。



「いいの? 佳月は、昂弥が消えちゃっても。もう二度と会えなくなっても、いいの?

本当に……何者にもなれないままで、いいの?」