「佳月、――昂弥が、いなくなっちゃう」
涙まじりのか細い声でそう言ったのは仁香さんで、
わたしの制服の袖をグンと引いたのは、結桜だった。
「……いなくなる、って」
自分でも誰のものかわからないほど、がさがさの声が出る。
「学校やめて、家も出るって。今月中にぜんぶ手続き済ませるからよろしくって。きのうの夜、ごはん食べながらそう言われて……、真っ先に浮かんだ佳月のこと、思わず聞いたけど、ダメだった。関係ないだろって、突っぱねられた」
仁香さんは昂弥先輩から具体的な話はなにも聞いていないみたいだった。
それでも、日々の態度や、生活リズムなんかを見て、ここのところずっと思うことはあったそう。
まるで中学時代の昂弥に戻ったみたいだと、彼の妹だと迷いなく自己紹介した彼女は、とうとうひと粒だけ涙を落としたのだった。
「ねえ、急がないと本当に取り返しがつかなくなっちゃうよ。昂弥、本気でいなくなるつもりだって、なにがあったのか知らないけど、揺るぎない決意だけはヒシヒシ感じたから……」
「ごめんなさい。わたしに、引きとめる資格なんてないです」
ひとりのときはあんなに泣いてしまうのに、いまは涙さえ出なくて、変なの。
目の前にある美しい顔がいくつものしずくで濡れているのを、なんだか現実じゃないみたいな気持ちで眺めている。
「わたしは、仁香さんが最初に言った通り、なにもできないんです。何者にもなれないです。……なれなかったです。けっきょく、無駄・無主張のわたしには……」
「――ふざけないでよ!」



