「――阿部佳月」
思えば、小さいころから、自分のつま先を見つめて歩くことが多かったような気がする。
前を向けば、お兄ちゃんがお父さんに頭を撫でてもらって、侑月がお母さんに手をつないでもらっていたから。
わたしはみんなのうしろをついて歩くのが定番だった。
それが嫌だったわけじゃない。
むしろ、たまに顔を上げると大好きな家族のいる景色が広がっているこの場所を、わたしだけの特等席だとも思っていた。
だけど――
「おい、阿部佳月」
たしかに、“アベカヅキ”、昂弥先輩の言った通りなかなか語感が良いな。
「こら、阿部佳月、こっちむけ!」
わたしのことを、たまにでも、フルネームで呼ぶ人間はひとりしかいなかったはずだ。
ついに幻聴まで聞くようになってしまったのか。
それくらいこじらせているのか。
そう思うと、心の底から悲しいのに、あまりの愚かさに笑いたくもなって、どんな顔をすればいいのかわからなくなった。
そんな表情を隠すように、さらにうつむいて歩く。
そうしていたら、ガシっと、いきなり腕を掴まれたのだった。



