そこでやっと、我に返る。
「一方的にしゃべりつづけてごめんね。
でも、佳月ちゃん。おれたちにはできないことを、佳月ちゃんなら、できるかもしれない」
気づいたら通話が途切れていた。
ウンともスンとも言わなくなったスマホを握りしめて、わたしはまた、もうここ最近の癖みたいに、ひとりで泣いていた。
手のひらで乱暴にそれをぬぐう。
そんなふうに言ってもらっておきながら、とても悲しいけれど、佐久間先輩の期待に、わたしは応えられないと思う。
できることなんて、なにもないから。
だって、わたしは、けっきょく何者にもなれないままだから。
あのときたしかに、この世のなにより好きだと思っていた先輩の指先に、一瞬だとしても怯えてしまった。
父親だというあの人と、とてもよく似た形をした、あの手に。
わたしは、わたしを、許せない。
ぜったい、許したくない。
あんなに甘えておいて、
たくさんの優しさや、ぬくもりをもらっておいて。
たった一瞬ぽっちで、それをぜんぶ仇で返すようなことをしてしまった。
こんなわたしが、自分勝手に、どこにも行かないでほしい、傍にいてほしい、なんて、都合のいいことを言えるわけがない。
どんなにぬぐってもいっこうに止まる気配がないので、仕方なく泣きながら眠った。
こんな夜にかぎって、昂弥先輩が優しく笑いかけてくれる夢を見るなんて、わたしはなんという不謹慎なやつなのだろう。
早く、消えてしまいたい。



