アイ・ラブ・ユーの先で

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正直なところ、よく覚えていない。


正確には、あまりにも現実味がなさすぎて、すべて夢だったような気がしている。

記憶にべったりとこびりついて取れないあのショッキングな映像は、ぜんぶ、映画かなんかのワンシーンだったんじゃないかって。


一時意識を失っていたお父さんを呆然と見下ろし、救急車と警察を呼ぼう、と提案したのは先輩のほうだった。

だからスマホを貸してほしいと頼まれたけど、最悪の事態が頭をよぎって、わたしは強く拒否した。


“最悪の事態”。

わたしにとってのそれは、横たえている人の生命についてでなく、水崎昂弥の未来に関することだ。


もし、このままこの人が目を覚まさなかったら、いや、目を覚ましたとしても、この状況を警察官に見られたら、昂弥先輩はいったいどうなってしまうのだろう?


そう思いはじめると、止まらなくて、恐ろしくなってしまって。

そして、目の前にいる人間の生死より、まず先にそんなことを考えてしまう自分も、同じくらい恐ろしかった。


喧嘩になりかけた。
というより、先輩が普段しないような強い口調で、いいからスマホを出せとわたしに迫った。

それでも泣きながらイヤイヤとかぶりを振っていたところで、お父さんが目を覚ましたのだ。


彼は息子を責めなかった。
それどころか、残念だったな、殺しそこねたな、と言って笑ってみせた。

そうして、やっぱり血は争えないんだよ、と。

ふつうの人間はこんなふうに肉親を(あや)めようとはしないんだって、はじめて穏やかな父のような顔を見せながら先輩の頭を撫でたのが、いちばん、ぞっとした。