すぐ目の前にあったはずの広い背中が、まばたきのあいだに消えていた。
「え……な、に……」
どさりという音がして、目線を落とす。
コンクリートの上に仰向けに倒された父が、自身に馬乗りになっている息子を見上げ、なぜか笑った。
「目が本気なんだよなあ。好きな女が見てんぞ、いいのか」
昂弥先輩はなにも言葉を発しようとしない。
そうして、無言のまま、ゆっくりと上半身のほうへ重心を傾けはじめたのだった。
「いいよ、早く殺せ、昂弥」
「……うるせえ」
「もう、一緒に死ぬか、俺ら」
「うるせえんだよ」
首にかかっている骨ばった両手の関節が、ボコボコといびつに白く浮き出ている。
それが小刻みに揺らめいているのは、恐怖心からくるものじゃなく、あまりの力に手のほうが耐えられていないのだと、はっきりわかった。
「……せんぱ、い」
いつのまにかわたしはその場にへたりこんでいた。
腰が抜けている。
とても、立っていられない。
「……だめ、いや……」



