お父さんの目線が再びわたしのほうを向く。
「……ああ、なるほど。女が出来たせいか」
それを遮るみたいに、先輩があいだに入るようにして立ってくれる。
「そう思うならとっとと失せろ」
「ええ? でもオトウサン、このままじゃ死んじゃうぜ?」
「あ、そ。早く死ね」
「ひっでえよなあ。俺ら、お互いがこの世で唯一の肉親なのに」
先輩は心の底から軽蔑したような、冷えきった一瞥を父親にむけ、すぐに逸らすと、ポケットからバイクのキーを取りだした。
「こっちは好きでそうなったわけじゃねえから。そもそも、母親が死んだのは、あんたのせいみたいなもんだろ」
黒い車体を撫でつづける手のひらを無理やり押しのけた先輩が、氷点下の温度感でぴしゃりと言い放つ。
そしていまにも鍵穴にキーを差しこもうとしていた指先を、即座に、よく似た手が掴んだ。
本当に、見まがうほどに同じ形をしていた。
先輩の手と、お父さんの手。
「――あの女を殺したのは、おまえだろ?」
目の前の男は、いったいなにを言っているのだろう。
「おまえさえ腹のなかに出来なかったら、おまえさえ生まれてなかったら、あの女は確実に、まだ生きてたんじゃねえの? こんな男のガキなんか産みやがったから、あいつは死んだんだよ。おまえもそう思うだろ?」
どうして、こんなことを、平気な顔で言えるの。
いままで先輩は、この人から、どんな言葉を投げかけられてきたの。
いったいどれほどまでに否定されて、
どんなふうに、扱われて。
「おまえが殺したんだよ、昂弥。
――おまえなんかが、生まれてきたから」



