「ていうかさ、あの寡黙な奥先輩とデートって、具体的になにするの? しゃべったりする?」
「なんかね、見るのも、するのも、スポーツ全般が好きみたいで、夏休みはやたらといっしょに高校野球を見てたよ。さすがに甲子園球場までは行けなかったけど」
「え……なにそれ。ほんっとうにゴメンだけど、ぜんぜん楽しそうに思えなくてビックリしてる」
「いやあ、それがさあ、メチャクチャ楽しいんだよね。野球部とつきあってたことがあるとはいえ、1ミリも高校野球になんか興味ないのに。好きな人といっしょにいるだけで、なにしてても超楽しいの、ウケるよね」
わたしのより1センチ分だけ小さいサイズのレザーに、するりと両足をすべりこませた恋する乙女が、恥ずかしそうに言いながらこちらをふり返った。
「そういう佳月はどうなの? ぜんぜん報告がないようだけど、夏休みは水崎先輩となんか進展があったわけ?」
ちょっとばかし切りすぎた前髪を指でチョイとつつかれて、ぎくり、そして、どきり、としてしまった。
「ふつうに……会ったりは、してたよ」
「だから、もうっ。会ってなにをしたのかって聞いてるんですけどー、コッチは!」
べつになんにもしてないよ、
ぜったいうそだ、
ほんとだってば、
じゃあドコまでいったんだ、
なんて、なんの生産性もなさそうな、でも女子高生にとっては最高に価値のあるやり取りをして、やかましくじゃれあいながら、校門付近へ近づいていく。
「あー。昂弥の彼女チャンと、一慶の彼女候補チャン、やっと来た」
甘ったるい声に、ゆるい雰囲気。
独特に伸ばされた語尾にかなり聞き覚えがあり、結桜と同時にしゃべるのをやめて、前方へ目をむけた。