こうしてティラちゃんに触れていると、いつも少しだけ、安心できる。
泣きながら走っていたあやしい新入生に話しかけてくれたこと。
自分はノーヘルになってまで、もしかしたら誰かに見つかって停学になるリスクを負ってまで、バイクのうしろに乗せて、入学式に間に合わせてくれたこと。
新入生と間違った失礼な後輩の言葉を、笑って聞き流してくれたこと。
どうしてだろう。なぜかいまは、“やばい”はずの先輩にしてもらった、いいことばかりを思い浮かべられるよ。ティラちゃんのおかげかな。
本当はどんな人なのだろう?
なぜか、そんなことまで考えてしまう。
いい噂を聞かない、というけれど。
それなら、噂の外側で、『やばい』を超えた先で、彼は、本当は、どういう存在なのだろう。
だって、そんなに悪そうな人じゃなかった。
噂のなかじゃない、実際にわたしが触れたあの人は、どちらかというと、よさそうな人だった、気がする。
ぼうっとしているうちにいつのまにか姿を見失っていた。
それでも、自分の教室にたどりついたあとも、クラスメートとしゃべっているあいだも、なぜか先輩の影のかたちがまぶたの裏にくっついたまま、しばらく取れなかった。
かすかな残像のように。
まるで、光のバグでも起きてしまったかのように。



