「気づくのが遅いんだよ」
すごく、会いたかった。
あなたのことを思い出したくてたまらなかった。
もらった優しさや、ぬくもりを、一度もなくしたことはなかった。
「なんなんですか……、先輩、ほんとは覚えてたんですよね。それならなんですぐ、正体を教えてくれなかったんですかっ」
駆け寄るなり、病室から連れてきたおまけのような涙を流しながら文句をたれるわたしを見て、先輩がおかしそうに笑う。
「そりゃ、『あなた誰ですか』って、初っ端にきっぱり言われたからな」
「……そんなこと言ってないです」
「おもいっきり言っただろうが、ふざけんなよ」
たしかに、よくよく思い返せば、おもいっきり言ってしまった、気がする。
でも、だ。
人生においてかなり重要な高校の入学式の朝、慣れない海沿いの一本道で、泣きながら命がけで走っていたところにあんな声のかけられ方をすれば、誰だって動揺してそう言いたくもなるだろう。
「まあ、忘れてんならべつにそれでいいとも思ったし」
「なんでそんな悲しいこと言うんですか……」
「あのときめいっぱい抱えてた寂しさを、もしおまえがまるっと忘れてんなら、わざわざ蒸し返すこともないだろうよ」
とても先輩らしい、さとくんらしい、考え。
だけど、わたしはそれから何度も“さとくん”の話をしていたはずだ。
であれば、そいつ実は俺だぜ、とか言って、どこかのタイミングで告白してくれてもよかったのでは。
まあ、わたしがそれを信じるか信じないかは、別として。



