「だってね、おうちに帰ったら、かづきには、だいすきなお父さんと、お母さんと、お兄ちゃんと、妹がいるからねっ」
その言葉を聞くなり、さとくんは、これまでのどんなそれよりも穏やかな笑顔を見せてくれたのだった。
そして、同時にうっすら生まれた目尻の皺を、あのころからわたしはとても好きだと感じていた。
「あとねー、さとくんに、おてがみも書いたの。おうちに帰ったらよんでね」
ちゃんとした便箋はないので、暇つぶしにと看護師さんからもらった赤い折り紙の裏に、短いけれど心をこめて書いた気持ち。
たくさんの、ありがとうと、それから……。
「いま読んだらダメなの?」
「だめ、はずかしーい!」
「ははっ、わかった、じゃあ帰ったら読むよ」
当時、学校で流行っていた折り方のハート形を、さとくんは少しだけ照れくさそうにしながら、ウサギといっしょに受け取ってくれた。
渡すものを渡しきれた充足感とともに、本当のお別れが来てしまうようで、じんわりと寂しさが募っていく。
そんなわたしに、さとくんは、あの青いティラノサウルスをくれたのだった。
また会おう、と約束して。
そう、かたい指きりげんまんをして、わたしたちはあの日、とても、とても長かった、ひと時のお別れをすることにしたんだ。



