「おまえはいちいち楽しそうでいいな」
「楽しそう、じゃなくて、ほんとに楽しいんですよ」
「退屈だわ、暑いわ、汚いわ、不便だわ、ロクな生活じゃねえだろ」
「いーえ、ぜんぜんっ」
まだこの生活をはじめて数日、家を恋しく思うことは一瞬もないどころか、けっこうしっかり楽しんでしまっていると思う。
「楽天家なのか、頑固者なのか、わかんねえな」
たしかに、ものすごく快適な環境というわけじゃないけれど。
金銭面のことは、本当に気にしているけれど。
もしかしたら先輩のほうは、いつ帰るつもりなんだよって、そろそろうんざりしているかもしれないけれど。
「先輩といっしょにいるんだったら、どこにいても、なにしてても、わたしはきっと楽しいです」
本気の気持ちだというのを伝えたくて顔を覗こうとしたら、ぐい、と額をおもいきり押しやられてしまった。
「おまえ、たまに恥ずかしげもなく平気でそういうこと言うの、なんなの」
「あれ、照れてます?」
「生意気」
「ちょっとくらい反撃してもいいじゃないですか。だって、やられっぱなしは嫌なんですよ」
ぶにぶに、両方の頬を伸ばすみたいにつままれて、けっこう痛い。



