「え、ちが……えっ? ちがくて、ていうか、急になんですか、いま、ぜったい、そういう感じじゃなかったじゃないですか」
「うそ」
近すぎる場所にあった顔が目の前から消え去ったと同時に、すぐ右側がぼふんと跳ねる。
いちど仰向きになった先輩は、体をひねってこちらを向くと、なんのためらいもなくわたしの首に額をすり寄せてきた。
「悪いけど、もう限界。いま何時だよ? いったんギブ。おまえも寝ろ」
知らなかった。まさか先輩が秒速で眠りについてしまえるタイプの、けっこう無防備な人間だったとは。
たくましい腕の重みをお腹のあたりに感じ、首に直接かかる寝息のリズムを聞いているうち、つられて、ゆるやかに、まどろみのなかへ引っぱられていく。
クーラーもない蒸し暑い空間で、シャワーすら浴びていないことも忘れて、ふたりくっついたまま眠った。
これまでのどんな環境より劣悪で、それでいて、こんなにも優良な夜を、わたしはこれまでに一度だって過ごしたことがなかっただろう。



