「だから、よけいなことほざいてないで、おまえはのんきに、ずうずうしく、いつも通りしてればいいんだよ」
先輩は、すごく、かっこいい人だ。
見た目だけの話じゃない。
人柄、生き様、遠くから見ていたときも、近くで見るようになってからも、すべてにおいて、そう思う。
そういう人に愛されて、大切にしてもらっているのを、嘘じゃないと感じられること。
それは、世界で何番目くらいの奇跡なんだろう。
なくしたくない。
消えてほしくない。
だって、わたしも、この人をとても好きで、大切だから。
「……昂弥先輩も」
「なに?」
「たまにはわたしに、甘えていいですよ」
男の人のことを抱きしめたいと思ったのははじめてだった。
見た目よりずっとやわらかな襟足に指を伸ばし、首筋に顔を埋める。
抱きしめるというより、結局わたしが抱きついてしまっているのは、目をつぶっておいてほしい。
「おまえ、それ、誘ってんのか」
「え」
「いまのこの状況、ちゃんとわかって物事しゃべってんの?」
そのまま逆向きに体重をかけられて、気がついたら、あまりクッション性のよくないマットレスに背中がくっついていた。
大きな体に組み敷かれている。
こちらの逃げ場をぜんぶ奪った先輩は、わたしの顔を覗きこみ、余裕綽々で楽しげに笑っているのだった。



