「……せんぱい」
たぶんかなりの時間、泣いて、泣いて、泣ききった。
だいぶ落ち着いて、頭も冷えてきた。
そうしたら、なんだか無性にこっ恥ずかしくて、急にいたたまれなくなってしまう。
「なに?」
「よく考えたら……わたしいま、めちゃくちゃメンドイ女じゃないですか?」
「は?」
笑いを含みながら聞き返される。
触れているかたいお腹が小さく揺れた。
「やばくないですか? 連絡もなしに突然バイト先まで押しかけて、家出してきました、って。挙句の果てにグシャグシャに泣いて、被害者ヅラして、家族への文句ぶちまけるとか」
先輩は笑っていた。
よくわかってんじゃん、と、耳を押し当てているみぞおちのあたりが、鼓膜へじかに振動を届けてくれる。
「……まあ、でも」
そっと体が離れる。
生まれた十数センチの距離を保ったまま、先輩は、汗や涙を吸い上げて湿ってしまっているわたしの髪を、手のひらでなぞった。
「いつも無駄に気張ってる阿部佳月が、俺の前で甘えたり、ぴーぴー泣いたりできるんなら、責めるどころか、それはむしろ喜ばしいことなんじゃねえの」
この人は、とろけそうに甘ったるい気持ちをくれるわけじゃない。
そういう“恋”を教えてくれるわけじゃない。
そうじゃなくて、それよりもうんと深い場所にあるものを、いつも静かに、さりげなく、そっと、見せてくれる。
こんなに大切なもの、どうして、よりによってわたしなんかに見せてくれるのだろう。



