いままで必死に考えないようにしていた疑問、それが頭のなかに浮かんだ瞬間、恐ろしくてたまらなくなった。
わたしはもしかしたら、もうずっと前から家族のことを大嫌いだったんじゃないかって。
だって、頭のなかでずっと文句を言っていたじゃん、って。
なんて、汚く、醜い生き物なのだろう。
わたしなんか、愛してもらえなくて当然の存在だ。
「阿部佳月」
強い声に、優しく名前を呼ばれて、はっとする。
わたしとは別の生き物になってしまったかのように、とりとめもなく家族に対する不満を垂れ流しつづけていたくちびるが、そこでやっと動きを止めてくれた。
「おまえは、大丈夫だよ」
「……なに、が、ですか」
「いま、そんなに惜しみなくぼろぼろ泣けてるおまえは、大丈夫だよ」
大丈夫って、すごく便利な言葉だな。
ぺらぺらに薄くて、気軽で、根拠もないし、それなのに、なんだかすごく分厚くて、やわらかくて、ぜんぶをすくい上げてくれる。
途方もないくらいの安心を、くれる。
「だから、本当に大丈夫になるまで、気の済むまで、俺が一緒にいてやる」
気持ちといっしょに、いよいよ本格的に涙が止まらなくなった。
誰かに冷たくされたときよりも、優しくされたときのほうが、どうしようもなく泣けるのはどうしてなんだろう。
沈むように膝から崩れ落ちたわたしを、白い月明かりから隠してくれるみたいに、先輩がそっと抱きしめた。
真っ暗な腕のなかは、やっぱりどこか、ほのかに、なつかしい香りがした。



