「……わか、ない」

「え? なに?」

「わかんないよ、なんにもっ」


ドアの前に立ちふさがる3人を押しのけ、自室に行くと、もうずいぶん使っていないボストンバッグを引っぱりだした。

グシャグシャにしてしまっていたせいでおかしな皺がいくつもついてしまっている。
だけど、どんなに伸ばしてみてもきれいに消える気配はなくて、途中で諦めた。


「佳月、なにしてるの? ねえ……」

「――侑月がおかしくなっちゃったの、わたしのせいだって」


まるで、自分で死刑宣告をしているみたいな気持ち。


「だから、わたしがいなくなったら、治るかもしれないね」

「なにを言ってるの、ちょっと佳月」


洋服や、下着、財布に、ポーチ。
ほかにも必要そうなものを手あたり次第詰めこんでいく腕に触れようとしたお母さんの手のひらを、力いっぱいふり払ったのはほとんど無意識だった。


「お願い、佳月までおかしなこと言い出さないで。佳月は……佳月だけは、いつも通りでいてちょうだいよ。志月も大学に行かないって言い出して、侑月も学校に行けなくなって……佳月までそんなふうになったら、お母さん、どうすればいいの」


よく言う。

あのとき、お兄ちゃんの味方をしたくせに。

理由も聞かないまま、侑月に学校を休ませつづけていたくせに。


「……いまさら、なんなの」


それなのに、いざこうなったら、どうしてわたしだけを責めるわけ。