「佳月が狼狽したところで、どうしようもないんだからな」
改札まで見送ってくれたお兄ちゃんの顔が、ぐにゃぐにゃと、夏の蜃気楼に溶けていくみたいだった。
「……わかってる、けど」
「いまは俺たちが冷静にならないと、侑月がますます不安定になるだけだよ」
――そうだけど、そもそも、お兄ちゃんが今朝よけいなことを言ったから、侑月があんなふうになったんじゃないの?
小さな反抗をしたい気持ちといっしょに、ローファーの裏側が、造りの荒いコンクリートを潰すように押しながら撫でた。
わかった、と、がさがさの声でなんとか答える。
海沿いの街へ、一定の速度を守りつづける鈍行で運ばれていく。
地上に降り立ち、ずいぶん歩き慣れてきた一本道をなぞりながら、いま黒いバイクが近づいてきてくれたらきっと泣いてしまうだろうな、なんて、夢みたいな想像をしてしまった。
だけど、夢はあくまで夢であり、現実というのは、そんなに都合よくいかないもので。
それどころか、全校生徒が集まっているはずの終業式でも、きょうに限ってその姿を見かけることはなかった。
今朝の光景が何度もフラッシュバックして、めまいを起こしながら、わたしはやっとの思いで1学期を終えたのだった。



