「これは可能性の話だけど、もし精神的なものからくるやつだったら、やばいかもな」
めずらしく家を出る時間がかぶり、途中までいっしょに歩いているとき、お兄ちゃんがポロっとこぼした。
「精神的なものって?」
「わからんけど、難しくなった勉強への不安とか、人間関係のこじれとか、そういう、ストレス」
たぶん、生まれてこのかた、お兄ちゃんとは完全に無縁だったものたち。
だから、どこか他人事みたいな。理解しがたい、みたいな。
同情はできるけど、同調はできない、みたいな。
そういう面持ちで本気で首をひねる兄の横顔に、ああ、スーパーマンは最初の瞬間からスーパーマンとして産み落とされているのだ、とどうしようもない不公平を感じてしまった。
「まあ、うちの侑月に限ってそんなことはないと信じたいけど」
軽やかに言ったお兄ちゃんが分かれ道を右方向へ進んでいく。
うまく答えられないまま、わたしは左へと向かった。
もしこの場に侑月がいたら、あの子は左右どちらへ進むのだろう。
お兄ちゃんと、お姉ちゃん、どちらが進むほうへ行きたがるのだろう。
すでにわかりきっていそうな設問を頭に浮かべて、急いでゴシゴシと消し去ってから、駅へと急ぐ。
侑月にとって、お兄ちゃんのようなカッコイイ存在になれないとしても、わたしはせめて、いつでも寄り添ってあげるお姉ちゃんでいよう。
最近よくいっしょに寝たがる妹の寝顔をめいっぱい心で抱きしめた。
本当に、なにもなければいいのだけど。
そういえば侑月は昔から、無邪気なわがままはいくらでも口にするのに、弱音や悩みごとなんかを吐きだすことって、一度もなかったような気がするのだ。



