“家族愛”を題材にした映画。
詳しいストーリーはわからないけど、ポスターの雰囲気とか、CMで見かけた感じとか、『家族の大切さを痛感して、泣ける』などと評判だ。
「友達と行けよ。夏休みも近いし、それだけ話題なら誰とだって見れるだろ」
こんなにも露骨に、態度や言葉に出されると、聞かないでおこうと固く誓っていた決意さえ、簡単に剥がれ落ちていってしまう。
先輩はどうして、仁香さんのおうちで生活しているのですか。
先輩のお父さんと、お母さんは、どこで、なにをしているのですか。
どうしていっしょに暮らしていないのですか。
「……わたしは、夏休みも、先輩に会いたいです」
けれど、喉まで出かかった質問は懸命にぜんぶ飲みこんで、シンプルな願望だけをぶつけた。
それは、きょう、顔を見る前から、ずっと伝えたいと思っていた気持ちだった。
「そうだな」
少し上にある顔が小さくうなずく。
「ちょうど俺も、そう思ってたところだよ」
たったこれだけのことで泣きたくなるくらい、とても大きな幸福と、同じくらいの切なさを、もらってしまう。
先輩の心のなかに、どんなに耳を澄ませても聞こえない、目を凝らしても見えない、静かで、暗い、踏み込めない場所がある。
バイクにふたり乗りしても、花火の残り香の下で抱きあっても、スムージーを交互に飲んでも、指を絡めて手をつないでも、たとえ、とても深くわたしを愛する日が来たとしても、
先輩はきっと、最後まで見せてくれるつもりはないのだろう。
それならば、一秒でも長くこの幸せが続くように、と。
その一秒が、どうかどちらかの最期の瞬間でありますように、と。
大げさで、大まじめな願いを混ぜて、触れている指先にぎゅっと力をこめた。



