「なんか、すごく楽しいです」
わざと背中を揺らしながら隣にならんだ。
数百グラムのクチビルのぬいぐるみが、たしかな重みとして追加されていることを、ものすごく愛しい現実に感じてしまう。
「歩いてしゃべってるだけだろうが」
「それが楽しいんですよ」
そうかよ、と言った彼の左手を盗み見て、いちど目を逸らして、やっぱりもういちど、見た。
「……昂弥先輩、わたしって本当にずうずうしいので、この際もうひとつわがまま言ってもいいですか?」
「おー、なかなか開き直ってんな、おまえ」
そうさせたのは自分だということをまるで自覚していないような言い方。
わたしはもともと、こんなにずうずうしい人間ではないのだ。
少なくとも、家族の前では。
「手を、つないでも、いいですか」
告げる前は余裕をかましていたのに、いざ口に出すと、ぐわっと羞恥が心いっぱいに広がっていく。
むなしくアスファルトに落ちる前に、この寝ぼけた発言を拾い上げるか、捨ててしまうか、どうにかしてほしいと願っていたら、いきなり右手が別の温度を感じたのだった。
「……っ、え」
「こういうことか」



