「ほらよ」
趣味の悪いクチビルを獲得したこと、あまり名誉だとは思っていなさそうに、だけどちょっと得意げな顔をして、先輩はそれを手渡してくれた。
「すごーい! あっというま! ありがとうございます。かわいいー!」
「どこがかわいいんだよ、それの」
「先輩にはわからなくていいです。わたしにとってはすーっごくかわいいので」
「ああ、そう」
そっけなく言いつつ、わたしが金具をひらくのに悪戦苦闘していると、リュックごとさらっていってしまう。先輩は、そういう人。
そしてなにも言わないまま、ティラノサウルスの隣にくちびるをくっつけてくれた。
なんだかラブミーのロゴがティラちゃんに熱烈なキスをしているみたい。
「……ありがとう、ございます」
「すげえ光景だな。女子高生の鞄に恐竜とクチビルって」
「どこにいてもすぐ見つけられそうじゃないですか?」
先輩は薄く笑った。そうだな、と簡単に肯定する。
「じゃ、常にちゃんとつけとけよ。俺がいつでも阿部佳月を見つけられるように」
……あれ?
なんだろう、突然やってきた、このわけのわからない既視感は。
絶対にそんなことないはずなのに、かつて、まったく同じ経験したことがあるような。
強烈に、そんな感覚がする。
前触れもなく思考をジャックするデジャヴという現象を、化学の分野はもう解明できているのだろうか。
そうこうしているうちに、先輩はゲームセンターの出口へ向かって歩きはじめていた。
また、あわてて追いかける。
外へ出るとき、プリクラの機械が目に入ったけど、水崎昂弥という男は絶対にいっしょに撮らない人だろうな、と思って、よけいなことをしゃべるのはやめておいた。



