「じゃあ、かわりのもの取ってもらったら、ティラちゃんは外しときます」
「いいよ、それは」
リュックを前に抱えなおし、キーホルダーの金具を外そうとした指を、先輩の大きな手が制止した。
「大事なお守りだって言ってただろ」
ああ、この人はもしかしたら本当に、ぜんぶ覚えているのかもしれない。
わたしがいままで言ったこと。何気ない会話。ちょっとした戯言。
本当に、ずるい。
手ごわいし、きっと、ずっと、かなわない。
「それならわたし、あれがいいです」
通路の端にある台を指さすと、ドカドカ近づいていった先輩が、そのなかを覗くなり眉をひそめてこちらに視線を戻した。
「なんだ、この趣味の悪いクチビルは」
「知らないんですか? “ラブ・ミー”っていうブランドのロゴですよ」
「知らねえよ」
10代の女子にかなり人気のあるブランドなので、ラブミーは知っている男子も少なくないと思うけど、たしかに先輩はこういうのとは無縁な人だろうな、と納得してしまう。
「まあ、たしかに仁香さんも、ちょっと違う系統ですもんね」
「だからといって俺は仁香がなにを好きなのか知らないけどな」
ひとつ屋根の下できょうだい同然に暮らしているくせに、それはそれでちょっと無関心すぎるのでは。
「いいよ、じゃあこれ、取ってやる」
手先が器用なのか、センスがあるのか、先輩はきっちりワンコインで獲物を仕留めてのけたのだった。
前世は狩猟本能アリアリの肉食獣だったのではないかと想像する。
そうだよ、やっぱり、少しだけティラノサウルスに似ているところがあるよ。
またしょうもないことを考えてしまった。



