顔を上げたら、広い背中が近くのゲームセンターに入っていくところだった。
ふり向きもしないので急いで追いかける。
「ちょっと、水崎先輩、置いてかないでくださいっ」
「おまえさ、もう呼ばねえの?」
「え?」
「こないだはずうずうしく呼んでただろ、俺のこと、名前で」
だから、さっきから人のことをずうずうしい呼ばわりして、いったいなんなわけ。
「……いいの、ですか、名前で呼んでも」
「俺は許可も禁止もした覚えないけど。呼びたきゃ勝手に呼べばいい」
それは、呼んでほしい、という解釈をしてもいいですよね。
なんてったって、わたしはとても、ずうずうしい女ですからね。
「昂弥先輩」
練習がてら、半歩ほど前を行く襟足にむかってそう呼んでみると、首だけひねった先輩が横顔でわたしを見下ろした。
嫌そうじゃない。むしろ、ちょっと。
「適応能力ありすぎなんだよ」
おかしそうに、ほんの少し居心地悪そうに、とびきりうれしそうに、笑ってくれる。
体の中心に熱が集まって、ずうずうしいついでに、その腕をつかまえたくなってしまう。
息をひそめて手を伸ばしかけたとき、先輩はUFOキャッチャーのコーナーで急に足を止めたのだった。
「なんか新しいやつ取ってやるよ」
「え」
「いつまでも、昔の男にもらった恐竜だけぶら下げられてんのも、気に入らないからな」
さあ選べ、と言われても、それより先に認めてもらいたいことが、こっちもひとつだけあるわけで。
「それって結局やっぱりやきもちですよね」
「うるせえな」
まったくもってしょうがない。
今回限り、その暴言を肯定の言葉として、受け取っておこう。



