ふたりで交互に飲んでいたら、あっというまに空になってしまったプラスチックのカップをゴミ箱に捨てるころ、先輩がわたしのリュックをじっと見つめていることに気がついた。
「なんですか。なんか、ついてますか」
「ついてるだろ、ずっと」
いきなり、優しい力でうしろへ引っぱられる。
なぜか、青いティラノサウルスが先輩の右手に掴まれていた。
「おまえさ、もしかしてこのヨレヨレの恐竜、昔からずっとつけっぱなし?」
「……なんですか、突然」
「突然じゃねえよ」
先輩はほんの少しだけじれったそうに言った。
おかしなまなざしがななめ下を向いている。
「……あれ。もしかして、やきもちでも妬いてるんですか?」
半分ジョークのつもり。
いつものお返しに、ちょっとしたいじわるでも言ってやろうかな、という軽い気持ち。
そのはずなのに、結局いつもわたしのほうが敗北してしまうのは、いったいなぜなの。
「“さとくん”、な」
この世のいじわるをぜんぶ詰めこんだ感じにニヤッと笑った表情を見て、シマッタと思わずにいられない。
「よ、よく……覚えていらっしゃる、そんな、ポロッとこぼしただけの名前まで」
「忘れるわけないだろうが」
ティラちゃんを解放するついでに、そのたくましい尻尾に優しいパンチを食らわせた先輩が、おまけみたいにわたしの額へデコピンをした。ぜんぜん痛くなくてびっくりする。
「全部覚えてるよ、俺は」
すぐにわたしを追い越し、歩きはじめてしまった先輩の体から分離したように、言葉だけが残って、この場に停滞する。
覚えてる――ぜんぶ、覚えてるって、なにを?



