「先輩は、彼女は作らないんですか?」
たぶんけっこう踏み入ったことを聞いてしまった。
でも、こんなのは若者にとって世間話の一環としてふつうだと思うし、決しておかしな質問ではないはず。
「必要だと思ったことがない」
先輩は、そっとこちらに視線を移し、静かにわたしを見下ろしながら、言った。
まっすぐ見つめられているのに、目が合っていないような、おかしな感覚がした。
「……好きな、ひとは?」
こっちは最高潮に緊張しながら聞いたのに、ふ、と、糸が切れたようにおかしそうに笑う。
目尻に、いつもと同じ、薄い皺が刻まれている。
「なにをどこまで聞いたのか知らねえけど、もしおまえが、俺と仁香がどうこうとか想像してんなら、それは完全な見当違いだよ」
「それ……も、嘘じゃないですか?」
「もう嘘はつくなって、おまえが言ったんだろうが」
でも、だって、わからない。
それが本当なのか、嘘なのか、知る術を持っていない。
だけど、先輩がそう言うなら、わたしはもう信じるしかない。



