「志月はずっと、佳月にとって自慢のお兄ちゃんだったもんね」


ああ、そうだね、間違いなくそうだったし、いまでも、そうだよ。だけど……。


「……お母さん」

「うん、なに?」

「その話、しばらくしたくない」


突っぱねるような言い方をしてしまった。

もっとやわらかく言ったつもりだったのに、想像以上に尖った響きの音に、わたしだけじゃなくお母さんも目を丸くした。


きのうかららしくないことばかりをしてしまっている。

でも、じゃあ、わたしらしいことっていったいなんなのかと聞かれても、いまは上手に答えられない。


「ねえ……志月の今回のことに感化されて、佳月まで変なこと言い出さないでね」


ヘンナコトという、大人にしか使えないような逃げ道を作って言ったのが、なんとなくすごく嫌だった。


「佳月だけは昔から本当にいい子で、なんの手もかからなくて、お母さんたち本当に助かってるんだよ。いつも、ありがとうね」


悪気は微塵も感じられなかった。

むしろ、隠しきれていない長女のトゲをなだめるつもりで発した優しい言葉のつもりなんだろうって、ちゃんとわかった。


「……うん。おやすみ」


だけど、だから、なにも言えない。

受けとることも、突き返すことも、いまはうまくできない。


こらえきれない涙を枕にしみこませて、せめて昨夜のことを思い出しながら、なるだけ体を丸めて眠った。