涼しい速度で、梅雨のジメジメした空気をうしろへ流しつづけていたバイクは、わたしのかすかな呼びかけに呼応するように止まったのだった。


「……どうした?」


星がまたたいている。
月が輝いている。

またたきと、輝きとは、とても似ているようで、本当はぜんぜん違う光り方だ。


星たちに呼ばれるようにフルフェイスのヘルメットを外した。

先輩も同じようにして、そのままふたり、がらんとしたさみしい夜空の下に飛び出した。


「嘘を、ついてほしくないです」


少し上にある顔を見ないまま、わたしは出しぬけに言った。


「本当のことは言わなくていいから、せめて、嘘だけは、ついてほしくないです」


先輩は察しのいい人だった。

わたしのこんな言葉だけで、誰からなにを聞いたのかと、責めるとはまた違うふうに、けれどたしかな圧をもって、訊ねた。


「なにも聞いてません。……聞けませんでした。仁香さんも、お父さんも、先輩のこと、なんとなく……守ってるみたいな感じがして」

「おまえさ、それは、よけいなことを聞きましたって言ってるようなもんだろ」


よけいなことって、なんだろう。

先輩には、なにがよけいで、なにがそうじゃないのだろう。

わたしは、先輩にとって、どっち側に属しているのだろう。

きっと限りなく後者で、
そう、だから、なにも言ってくれないわけで。