「……じゃあわたしも、先輩に内緒で聞きたいことがあるんですけど、いいですか」
ルール違反だから知りたいなら本人に聞いて、と。
仁香さんには、きっぱりそう言われてしまったけれど……。
「うん、なになに? なんでも聞いて。あ、でも、昂弥の恥ずかしいエピソードなんかは、実はあんまり手持ちが……」
「水崎先輩は、どうして学校をサボってまでアルバイトをしてるんですか?」
ほころびをひとつ生み出すくらいならかまわないだろう、という軽い気持ちだった。
それが、ふたつ、みっつ、ダムが決壊するみたいにあふれ出すなんて、こんな経験は一度もないから、自分でも戸惑ってしまう。
「どうして親元を離れて、この家で暮らしてるんですか? 親御さんはどうしてるんですか? なにか、理由がありますか。ぜんぶ……」
「ごめんね、佳月ちゃん」
ブレーキの壊れたくちびるの動きを制止するように、オーナーさんはいたって穏やかに、とても静かに、言った。
ごめんね――
それは、決してわたしを迎え入れてくれる言葉じゃない。
「そのことを昂弥が佳月ちゃんに伝えてないなら、勝手に僕から言うわけにもいかないと思う」
ああ、さすが、親子。仁香さんと同じことを言うんだな。
「でも……ひとつだけ、僕から言えることがあるとするなら」
銀色のスプーンが陶器の皿の上に置かれる。
からん、からん、と、ふたつ分のその音が、場違いなほど軽く鳴り響いた。
「生き急いでる感じは、するよ。きみらくらいの年齢だと、早く大人になりたいという気持ちが勝って、そうなってしまうこともあるのかもしれないね。昂弥はまさしくそれなんだろう」



