なんでか、お兄ちゃんと侑月の顔が浮かんで、うまく答えられない。
お兄ちゃんのこと、侑月のこと、欲張りだなんて一度も思ったことなんかないはずなのに。
自分のこと、頑張っているとか、清く正しいとか、そんなふうに厚かましく思ったこともないはずなのに。
「佳月が、もし、自分は何者にもなれないと思うなら、本当に昂弥とは関わらないほうがいいかもしれない。でも……」
シフト表を握りしめている手の上から、見た目よりずっと冷たい手が重なって、そっと、やさしく、握った。
「……なんでもない。ごめん、急いでるから行くね」
触れていた部分がぱっと解放される。
同時に、わたしの両手は行き場を失ってしまった。
「あ……あの、わたし、これからどうしたら」
「昂弥のこと待っててもいいと思うし、帰っちゃってもいいと思う。あたしの部屋、使いたいなら使ってていいし。佳月の好きにしていいよ」
ああ、参った。それがいちばん困るんだ。
ここまでついてきておいて、さんざんお世話になっておいて、いまさらだけど、どうするのがいちばんベストで、誰にも迷惑がかからないだろう?
……わたしは、どうしたいんだろう?
急に思いたって、お母さんに挨拶を済ませてから、隣接しているカフェのほうへむかった。
なにもできないけれど、できないなりに、させてほしい、したいと思うことなら、まったくないわけじゃないのかもしれない。



