「佳月って本当に主張のない顔してるね」
卓上ミラーのなかで目が合った仁香さんが、またとびきりの悪口をぶつけるように、ニヤリと笑った。
「だからさ、これからきっと、何者にだってなれるよ」
それでも、いちばんのお気に入りだという蝶々のバレッタを頭に乗せてくれながら、たぶんいじわるだけじゃない意味で、そうつけたしてくれた。
「あ、そーだそーだ。昂弥のバイトのシフト表あげよっか」
荷物の最終確認を終え、いまにも出かける体勢が整いつつあったのに、仁香さんは思い出したように机の引き出しを漁りはじめた。
「えっ、そんな、勝手に……?」
「いらないならいいけど」
濃い茶色の瞳が、試すようにじっとわたしを見つめている。
主張のない顔、という否定しようのない言葉が、脳内にこだました。
「……欲しい、です」
「ウン、いいね、そうこないと」
満足そうに笑った彼女の美しく白い手から、A4の紙を3枚受けとる。
中華料理屋さんと、ガソリンスタンドと、バー。
こうして見ると、学校に通っている高校生とは思えないようなスケジュールの入れ方だ。
「……ねえ、佳月。どんなに頑張っても、努力を重ねても、清く正しくいても、世の中、そうじゃない、欲張ったほうが、結局はいい思いをすることが多いのかな」
仁香さんは少し目を伏せ、いま渡してくれたばかりの薄っぺらい紙を、慈しむように指先だけで撫でた。



