水崎家のやわらかい柔軟剤の香りに包まれながら、ガラス製のミニテーブルをはさんで向かいあい、ふたりで顔を仕上げたり髪を作ったりした。
とはいえこういう技術にも乏しく、知識も豊富じゃないので、手こずったり、手を抜いたりしていると、これからデートで気合の入っている仁香さんにいろいろ手直しされた。
「さっきの話、半分ホントでね。あたしの初恋の相手、実は、昂弥なんだ」
自分の準備を終え、わたしの髪をハーフアップにまとめながら、仁香さんは唐突に言った。
ええっ、と大きな声が出てしまう。
「もちろん、ふられちゃったけど」
「え、と……告白、して?」
「うん、ソッコーした、我慢できないタチだから。告白だけにとどまらず、いろいろしたよ。既成事実つくっちゃえ、と思って夜這いしたこともあったし」
夜這い、って……。高校生の女の子がふつうに使って問題ない言葉なの。
いや、初恋と言っていたし、高校生どころか、ひょっとしたら仁香さんも水崎先輩も、もっと幼かった時代のことかもしれない。
「でも、昂弥は本当になびかない」
キュ、と頭皮が上へ引っぱられる。
「『いいかげんにしろ、妹みたいなもんだろ』がふられ文句だったけど、それが決め手じゃないんだろうなあとは、やっぱりなんとなく思う。相手があたしじゃなかったとしても、昂弥はきっとうなずかなかっただろうな」
「え? どういう……」
「昂弥はたくさんのものを精いっぱい守りながら、そして限りなく捨てながら、生きてるから」
とても、意味深な言葉。
思わず首をうしろに回そうとしたら、じっとしてて、と顎を両手でホールドされた。



