言われたとおりのドアを恐る恐る開けると、洋風の広いリビングには仁香さんと、前回お店でお会いしたオーナーさんと、その奥様らしき人が3人そろっていた。
いちばんよく知っているはずの水崎先輩が見当たらないので急に不安になってしまう。この状況で、わたしはどう、ご挨拶すれば。
「あ、佳月、帰ってきた。早かったね」
いきなり呼び捨てにされて面食らう。
やっぱり仁香さんは、水崎先輩とかなり似ている部分がある。
「こんばんは」
こちらが挨拶する前に、奥様らしき人がお上品に微笑んでくれた。
もうお風呂に入ったあとなのか、お化粧を落とした状態なのにとても美しいお顔は、仁香さんより少しだけ成熟した日本製のフランス人形だ。
「昂弥くんの学校の後輩なんですって? 先日は主人のお店にも遊びにいらしてくれたのよね」
「あ……はい、あの、すみません、急に、それにご挨拶もしないうちからお風呂までお借りしてしまって……。あの、阿部佳月といいます」
「佳月ちゃん、なんにも気にしなくていいのよ。雨に濡れて寒かったでしょう。こっちにいらっしゃい」
ソファのほうへ促されて腰をかけると、ホットココアが出てきた。カフェ経営で、この手のことに関してはきっとプロのお父さんがいれてくれたみたい。
「あの日は無事に帰れた?」
お礼を伝えて受けとると同時に訊ねられる。
プリンを食べに来た日のことを言われているのだと思う。
「はい、あの、おかげさまで。先輩、とっても安全運転してくださって」
「いやあ、それ、忖度してない?」
笑うとやっぱり刻まれる、目尻の皺。
なんとなく目で追ってしまうと、当然だけど視線が合って、きまりの悪さにあわててココアをすすった。
あったかい。甘すぎなくて、おいしい。



