「佳月って、スにテンテンじゃなくて、ツにテンテンなんです。にんべんに土ふたつの佳に、お月さまの月で、佳月です」
「へえ、そうなんだ。ふつうにきれいな名前じゃん」
ふつうなのか、きれいなのか、そういう言い方をされるとわからないな。
でも、たぶん……褒めてくれているのかな。
「一回聞いたらぜったい忘れなそうな名前」
顔を上げたら、ばちっと目が合って、仁香さんはニヤッと笑った。
なぜいまそんな表情をむけられたのかは大いに謎だけど、その顔は、やっぱり誰かさんとよく似ていると思った。
「あ、あの、というか、ほかにご家族は……? 勝手におじゃまするわけにも」
「そんなのいいよ、その前にとりあえず体きれいにしてきなよ。昂弥は口がヘタクソだし、パパとママにはあたしからてきとうに言っておくからさ。お風呂あがったらリビングに来て。出て、真っ直ぐ進んだところの、つきあたりのドアね」
あれ? いまたしかに、パパ・ママと呼んだ。
聞き間違いじゃない。ぜったいにそう言った。
もし先輩と仁香さんがきょうだいだとしたら、彼女の言うパパとママは、先輩にとってもお父さんとお母さんということになる。
やっぱり先輩に関するおかしな噂はぜんぶデマだと思う。
当てはまることよりも、当てはまらないことのほうがずっと多いから。
冷えた体を湯船であたためている途中、先輩もずぶ濡れだったことをはっと思い出して、あわててバスルームから引き上げた。
脱衣所のやわらかいにおい、どこかで嗅いだ覚えがあると思ったら、先輩に貸してもらったシャツと同じだ。
やさしい、家族のにおいだと思った。



