このまま、わたしはどこへ連れこまれて、なにをされてしまうのだろう。
そんなあさましい考えは、見覚えのある建物が見えてきたときにほとんど消え去った。
カフェ・サイドスタンド。
天下一品のプリンのある隠れた名店で、ここは、水崎先輩の“おうち”だ。
こないだと同じ場所でバイクを停車させると、先に降りた先輩がわたしのヘルメットを取り上げた。
「悪いな、高級ホテルのスイートルームじゃなくて」
おどけて言うので、気が抜けて、思わず笑ってしまう。
「いいえ、そっちのほうがむしろ下心アリアリな感じがして嫌です」
「家に連れこまれんのには下心感じねえのかよ? それはそれでマズイな。改めたほうがいい」
たしかに。
だけど、なぜだろう。恐怖や不安の気持ちがわずかでも残るどころか、このレトロな看板を見た瞬間、本当に感情はすべて安心感のほうへ振りきってしまったのである。
おとなしく先輩のあとをついて歩く。
きょうはお店の正面のドアは使わず、裏側の扉から入るみたいだった。
そういえば、こないだはオーナーさんとしか会わなかったけど、どういう家族構成なんだろう?
あの人は本当にお父さんじゃないのかな。じゃあ、お母さんは? 先輩のほかに、子どもはいるんだろうか……。
「ただいま」
玄関を開けたのと同時に先輩がきちんとそう言ったので、あわてて「おじゃまします」をくっつけた。
果たして本当にノコノコおじゃましていいのかもわからないけど、言わないよりきっとマシ。
ドアの開閉音が聞こえたのか、すぐに奥からドタドタとこちらにむかってくる音がして、思わず身構える。



