「おまえ、それ、褒める気ねえだろうが」
「ううん、褒めてます。わたしにとって“ティラノサウルス”はすごく強力なお守りだから」
信号が青に変わる。
止まっていた景色がゆったりと動きはじめる。
「おまえさ、いつまでも昔の男にもらったもんに縋ってんなよ」
「さとくんはべつに“昔の男”じゃないですし」
それに、すがっているわけでもない。
ただ、大切な記憶の蓋をたまに開けて、小さな推進力を分けてもらっているだけ。
「でも、先輩。ティラちゃんがいなくて泣きやんだの、もしかしたら、はじめてかもしれないです」
先輩はまたなにも答えなかった。
今度はきっと本当に聞こえなかったのだろう。
だって、わざと、聞こえないように言ったから。



