「書いてあるんだよ」
「え……」
すっと指をさされる。
慌てて、右手に持ったままの平たい機械を手のひらごとひっくり返す。
中学のころ友達といっしょに作ったネームステッカーが、透明なスマホケースのど真ん中に君臨していて、力が抜けたら膝から崩れ落ちるかと思った。
「はあ……びっくりした、そういうことかあ」
「スマホケースのなかに堂々とフルネーム入れとくとか、危機管理能力なさすぎじゃねえの」
いいからもう行けよ、と、くっつけるみたいに言われた。
「え……あなたは? 行かないんですか? 入学式……」
「そんなもん出るわけねえだろ」
「えっ」
ただバイクに乗っているだけの普通の人じゃなく、もしかして、本当に不良の人なの。
もしや、わたしはこれから3年間、今回の件をネタに、この人の使い走りとして延々とこき使われ続けるんじゃないの。
そんなに悪い人ではないのかも……と思いかけていたのに、いっきに形勢逆転だ。
たしかに、佇まいも、態度も、しゃべり方も、雰囲気も、きれいな顔の造りでさえ、かなり威圧的な感じはする。
「あの! ちゃんと、このお礼はするのでっ」
だからどうか、下僕のように扱うことだけは勘弁してほしいです。
そう願ったこともむなしく、彼はわたしのオデコを指の腹で軽く弾くと、ニヤッと笑ったのだった。
「水崎昂弥。――ちゃんと、覚えとけよ」
さっきまでわたしの頭にかぶせていたヘルメットを今度は自分の頭にかぶる。そうして再びバイクに跨ると、彼はあっというまに行ってしまった。
ものすごい度胸をした男の子だ。
まさか、入学式の初日から学校をサボるなんて。



