そう言っておじいさんは静かに笑って見せた。




だけど僕にはやはり分からなかった。



生きてきた年数が、濃さが違う。




そう決めつけて、自分にはないものを持っているおじいさんを勝手に羨ましく思ってしまった。




「俺には分かりません。何が正しいのか、何がしたいのか……」




自信のなさが声に乗って届く。




「正しいものを選ぶんじゃない、大切なものを選ぶんだよ」





そう言う笑顔にはたくさんの皺ができる。





「それが、周りが悲しむようなことでも?」





「周りがどう思おうが、それが兄ちゃんが選んだ大切なものになる。そういうことだよ」





「大切なもの……」




大切なものはある。





しかしそれが本当に僕にとって大切なものなのか、それが本当に守りたいものなのかが分からなかった。





死んだ後の行動で後悔するなんてバカバカしいかもしれない。





そう思うように努めるも、まだ“感情”が残っている以上、心配せざるを得なかった。