「弘明!」


伶香がすぐに駆けつける。


弘明は虚ろな目をしていて伶香が声をかけても答えず、そのまま倒れ込んでしまった。


「おい、大丈夫か!?」


健が弘明の横に膝をついた。


「ちょっと、これ、なに!?」


伶香が悲鳴のような声をあげる。


「なに? どうしたの?」


健と同じように弘明の隣にしゃがみ込み、様子を伺う。


伶香が震える指先で弘明の耳を指さした。


弘明の耳は耳たぶの部分が少しだけ溶けていて、形が崩れている。


「嘘でしょ……」


あたしは口に手を当てて顔をそむけた。


部屋の中には弘明1人しかいなかった。


それなのに、弘明の体の一部はトシと同じように溶けているのだ。


「なにか……思い出せそうだった」


弘明がようやく口を開き、そう言った。


「思い出す?」


郁美が眉をよせてそう聞いた。


そう言えば、トシも死ぬ前に何かを『思い出す』というような事を口走っていた。


「弘明、今はいいよ。部屋に戻ろうよ」


伶香が言い、健が弘明の体を支えて立たせた。


「なにか……重要な事だったんだ」


言いながら、弘明は口の端からヨダレを垂らした。


それを見て伶香が泣きそうな表情になる。


あたしは振り返りドアを見つめた。


その部屋は一体なんなんだろう……。


言い知れぬ不安が、胸の中に渦巻いていたのだった。