「いずれ、ちゃんと話すよ」


「いずれっていつ?」


間髪入れずに問い掛けると、クロは少しだけ困ったように笑って「そうだな……」と独り言のように呟いた。


「じゃあ、一ヶ月経って千帆が変わったら、俺のことを話す。それでどう?」


「なにそれ。なんかずるくない?」


「そう? でも、千帆が知りたいことはなんでも答えるよ」


彼は言い終わる前に立ち上がると、私にも立つように目配せをした。


「ほら、帰るぞ」


腑に落ちないけど、このまま粘らせてもらえないこともなんとなくわかっていて、仕方なく腰を上げる。


「じゃあな」


ふわりと微笑んだクロは、公園の正面入口とは反対側に向かって歩き出した。


彼が私よりも先に立ち去るのは初めてで、別にどうでもいいようなことだと思うのに、そんな些細な態度がなんだか気になってしまう。


それでも、口を開くことはできなくていつもよりも少しだけ重く感じる足を動かそうとした時、クロが立ち止まって振り返った。


「おやすみ、千帆」


向けられたのはいつもの笑顔だったのに、その表情は夜の闇に消えてしまいそうなほど儚く見えて……。


「クロ……っ!」


気がつけば、再び歩き始めていた彼の背中を呼び止めていた。