(墨田区東向島、悠大のマンション)


優しいkissを交わした後、ニキさんは私の手を繋いでリビングに戻り、
姫とユウさんにお礼を言った。
ニキさんは頭をかきながら照れくさそうにユウさんに話かける。
ユウさんも私たちの気持ちを察していたようで、
安心したような笑みを浮かべていた。



向琉「伊吹さん。
  もう遅いから、家まで送るからな」
伊吹「うん」
向琉「悠大、帰るよ。邪魔したな」
悠大「おう、帰れ帰れ。
  お前たちが居ると俺たちが熱ーい愛を語れないだろ。
  もっと早くに空気読めよ(笑)」
向琉「言われなくてもわかってるよ。
  悠大。ありがとうな」
悠大「おお。気をつけて帰れよ。
  伊吹ちゃんもいろいろあって疲れてるだろうから、
  早めに家まで送ってやれよ」
向琉「ああ」
悠大「アダム、送り狼になるなよ、っていうか、
  そろそろなったほうがお前のためにはいいかもな」
向琉「るせー。至らんお世話だ。
  じゃあ、また」
悠大「おお。またな」
伊吹「ユウさん、姫、ありがとう」
悠大「ああ。アダムと仲良くな」
伊吹「はい(笑)」
姫奈「イブ、またね」
伊吹「うん。姫、またね」


マンションを降りるとユウさんが気を利かせて呼んでくれてたようで、
タクシーが入口に止まっていて、運転手さんから声をかけられる。
ニキさんと私はそのタクシーに乗り、
墨田川を渡り南千住を通って、私の自宅へと向かった。
タクシーがうちに到着する間、
ツンレデなニキさんはずっと私の手を握り、流れる窓の景色を眺めている。
これが本来の彼なんだろうと、
横目でその姿を見ながら私は安堵の微笑を浮かべた。



(伊吹のアパート“ベルメゾン301号室”)


玄関前まで送ってくれたニキさんと再びkissを交わし、
私は玄関キーと回してドアを開けた。
すると、待ってましたとばかりにチャコが飛び出し、
みゃーっ!と訴えるように鳴き声をあげる。
私とニキさんの両足に、悟ってるかのように交互に巻きついてきた。
甘えて纏わりつく愛くるしいチャコを、
優しい眼差しで見つめてる彼に私の胸はキュンとなる。


伊吹「チャコが初対面の人にこんなに懐くなんて初めてかも。
  (しかも、こんな優しい表情のニキさんを見るのも初めてかも)」
向琉「それは光栄だね。
  チャコは人を見る目があるんだな」
伊吹「そうよ。そういうところも飼い主にしてるの」
向琉「自分で言うかな」
伊吹「そうよね(笑)」
向琉「伊吹さん、今日はありがとう。
  僕が帰ったらすぐにカギをかけるんだよ」
伊吹「えっ。あの、少し上がっていって?
  コーヒー入れるから」
向琉「でももう遅いし。
  夜遅くに女性ひとりの部屋にお邪魔するのは僕の意に反する」
伊吹「あっ。そのセリフ前にも聞いた」
向琉「そうだっけ(笑)」」
伊吹「ええ。そう(笑)」
向琉「明日は二人とも仕事だ」
伊吹「ええ、そうね。仕事がある」
向琉「それに僕は礼服のままだし、着替えもない」
伊吹「そうね。でも……
  このままおやすみするのは、なんだか寂しい」



玄関にいるニキさんの胸に手を当て、
左頬を押し当てると甘えるように縋る。
こんな感情にストレートな私は、
今までには絶対と言っていいほど存在しなかった。
舞香さんの言葉が、私を素直にさせたに違いなく、
自分でもどうしたの?って思うくらいに感情に従順で。


向琉「伊吹さん……
  このまま上がったら、抑える自信がないよ」
伊吹「抑える自信って?……どんな?」
向琉「どんなって。
  僕にそんなこと言わせる気?」


その言葉で、お互いが同じ思いでいることが認識できた私は、
はにかみ少し困った表情を浮かべている彼を、
軽く斜め上に首をひねって微笑み見た。
互いの息がかかるくらい、唇が触れるくらい近くにニキさんの顔がある。



向琉「もう。
  どうして君はいつもそんなに僕を困らせるんだ」
伊吹「アダムが。ニキさんがたまらなく好きだから」
向琉「伊吹さん」
伊吹「ニキさん……」



彼は左手で力強く抱きしめながら、
右手は私の髪を絡ませるように撫でて、しっとりと唇と合わせると、
徐々に吸い付くような深く熱いkissに変わった。
柔らかな唇で繋がったまま、玄関の壁を転がるように伝い部屋に入っていく。
ニキさんの体から漂う甘くセクシーで包み込むような清潔感の漂う香り。


そう。この香り……
ニキさんの香りが大好き。


まるで媚薬のようなそのスパイシーかつセクシーな香りは、
完全に私を包み込んで離さない。
ニキさんのソフトな唇は私の唇を離れ瞼へ移り、
頬、耳へとなぞる様に探求する。
そして熱いの吐息と温かな唇は、首から胸元へと下りていき、
ハープを奏でるように優しく触れられるたびに私の全身は喜びに震えた。
重なり合った二人は甘い吐息をもらし、
愛の言葉と共に天高く昇りつめ落ちたのだった…… 



翌早朝。
僅かに開いたカーテンの隙間から差し込む真っ白い朝日が、
スポットライトのようにベッドを照らし、
私はゆっくり目を覚ました。
横には安心しきって眠っているニキさんがいる。
柔らかくねこっ毛の彼の髪をゆっくり撫でて、
私は湧き上がる幸福感を感じ微笑んだ。



伊吹「この香り……
  何の香りかな。いい匂い」


小さな声でぽそっとつぶやく。
すると寝ているはずのニキさんの手が、
そっと私の身体に触れたかと思ったら、
彼は身体を起こしながらkissをして私に覆い被さる。



向琉「んーっ。この香りは、サムライ。
  でも、伊吹のほうがもっといい香りがするな」
伊吹「私の香りはね、スノードロップ。
  エデンの園を追放されたアダムとイヴが、
  大雪と寒さで悲嘆にくれていると、
  ふたりの前に天使が舞い降りて慰めたの。
  『厳しい寒さの冬も永遠のものではない。
  必ず暖かい春は訪れる』とふたりを励まして、
  雪をすくって息を吹きかけると、雫がこぼれて花に変わったの。
  それがスノードロップの花よ」
向琉「そうか。
  じゃあ、僕らにぴったりの香りだね」
伊吹「うん」


ニキさんは何度もkissをして、私の胸に顔をうずめた。
私たちはまたも昨夜の余韻と、
スノードロップの優雅で柔らかい香りに浸り抱き合った。
しかし今日はニキさんも私も仕事の日。
甘い時間はいつもより一時間早い目覚ましのアラーム音にかき消され、
容赦なく現実に引き戻される。
ニキさんは私にキスをして洋服を着替えると、
「またね」と言って、慌てて帰っていった。
そして私もシャワーを浴び、
バタバタと着替えと化粧を済ませたのだった。