大学の内部受験者合格発表があった数日後のこと、その日は朝から空気が違っていた。

「周桜、腱鞘炎らしいぞ」と、あちらこちらで詩月くんの噂をする学生たちの様子が、何処かよそよそしかった。

文化祭の来賓アピールに「ピアノでショパンを弾け」と命じられた後、生徒会長に手を掴まれ呼び止められた詩月くんは、小さく呻き手を庇ってうずくまったと言う。

詩月くんを整形外科で見たという学生もいると言う。

昼休みに学長室に呼び出された詩月くんは、12時40分くらいに学食に入ってきた。

安坂さんと緒方さんが手を上げて、定食をトレイに乗せた詩月くんを席に招く。

「周桜、指の調子はどうだ?」

生徒会長が移動する詩月くんに声をかけた。

「他言するなと言ったよな」

詩月くんの目が生徒会長を捉え、険しくなり静かに言った。

「何のことだ」

「ふざけるな。知らばっくれるなよ。お前しか」