〝目は口ほどにものを言う〟なんてことわざは知っているけれど、私は誰かの気持ちを瞳から読み取ったことなんてないし、しようとも思わない。
色を変えるわけではない、ただいつもまん丸いだけのそこからくみ取るなんて、不可能に思えるしなにより面倒くさい。
でも、他人の気持ちを感じとることに長けた人はたしかにいるから、湊さんもそういう類の人なんだろう。
そう片付け見上げていると、湊さんが「平気で嘘つく言葉よりもよっぽどわかりやすいから」と笑った。
少し冷めたような、わずかに嫌悪感が滲んでいるような、そんな笑みだ。今までの楽しそうなものとは違う。
『平気で嘘つく言葉』だなんて言うってことは、過去にひどい嘘でもつかれたってことだろうか。
「たとえ嘘でも、言葉にできたほうがいいときもあるんじゃないですか」
引っ掛かりを感じてボソッと呟いた私を、湊さんが驚いた顔をして見るから、じっと見上げながら続ける。
「それで誰かが安心できるなら、嘘も必要なときがあるのかなって。誰かを、傷つけないように守るための嘘なら……ああでも、結局そこに気持ちが伴っていなければ、あとで傷つけるだけなんですかね」
高校時代のことが頭をよぎり、目を伏せながら言う。それから、もう一度湊さんを見上げた。
「それより、例えうっかりでもそんなことを言ってると、話を聞いてほしいみたいに聞こえるから気を付けたほうがいいですよ。
湊さんはそういうつもりはなくても、相手の女性が勘違いしたりしておかしなことになっても困るでしょ。
男性の弱い部分にキュンとくる女性、多いって言いますし」
じょじょに暗くなってきた空に、駅の周りの街灯が一斉に点灯しだす。
オレンジ色の柔らかい明かりが、道の上にポツポツと浮いていた。
帰宅途中のたくさんの人が、吸い込まれるように駅の中に入っていく。
私も早く帰って明日に備えたいのが本音だ。
今日だって歩き回って疲れたし、帰ったらコインランドリーだって行かないと。
それに、明日からの部屋探しだってしないとマズい。
そうだ。こんなことしてる場合じゃない。



