「あの、連絡先が難しいようだったら、今ここで少し待ってていただくことはできませんか?」
もしかしたら警戒されているのかなと思い、そう提案する。
だって湊さんはこの外見だ。
連絡先を教えて欲しいなんて申し出はたくさん受けているだろうし。
私の今の言葉だってそうとられている可能性もある。
それは正直、不本意だな……と思いながらも口には出さずに、湊さんを見上げた。
「待っててください。十分でいいですから」
失礼は承知でお願いする。
この駅は普段使わないけれど、さっき通ったらなかにちょっとしたお土産になりそうなバームクーヘンやチョコのお店が入っていた。
そこでなにかを買って渡せれば……そう思い言った私に、湊さんは瞬きを二回ほどしてからふっと力の抜けた笑顔を見せた。
「そんな必死に言ってくれなくても」
おかしそうにクックと笑われ、またハッとする。
私が必死になればなるほど、湊さんに好意を持っているからこその言動に思われてしまうのかもしれない。
違うのに。
でも、だからといって、好意はないなんてわざわざ言うのも失礼だし……。
そのジレンマと葛藤していると、湊さんが笑顔のまま言う。
「いや、ごめんごめん。森野さんがただお礼をしたいだけだっていうのはわかってるよ。ただ、俺に誤解されてたらーとか、そういう感情が見てとれたからおもしろくて」
「え……感情が見てとれたって、顔に出てた、とかですか?」
今まで二十年間生きてきて、どちらかと言えばポーカーフェイスだとか無表情って言われることが多かった。
それだけに驚くと、湊さんが頷く。
「顔っていうか、瞳にね。俺、人の目をよく見るくせがあるから」
「瞳で感情がわかるって……ずいぶん、優れた目ですね」



