「あの……これは?」
どういう理由で渡されたのかがわからずに聞くと、湊さんがにこりと微笑む。
「今日、誕生日なんだろ?」
「え……」と声をもらしたまま、数秒間固まってしまった。
今日は何日だったっけ?と考えて、少ししてからようやく七月十八日だと気づく。
たしかに、私の二十一回目の誕生日だった。
……すっかり忘れていた。
だって、ここのところ疲れ切っていて今日が何日かなんて、意識して考えもしなかった。
「落し物のポーチの中身を覗いたとき、保険証を見て知って。紗希ちゃん、ピンクと白が合いそうだと思ったから、その二色でまとめてもらったんだ」
呆然としたまま顔を上げると、湊さんが柔らかく目を細める。
「おめでとう、紗希ちゃん。できるなら、このあとも俺に誕生日祝わせて欲しいんだけど」
シンデレラストーリーなんて信じないし、万が一、自分の身におこったりしたら、まず裏がないかと疑ってかかるに決まっている。
テレビや漫画でそういう類の話を目にするたびに、そう思ってきたのに……じわじわと温かい嬉しさが広がっていく胸に、案外、自分は単純なんだなと思い知る。
弱り切っていたところに差し出された蜜が、こんなにも私を惑わせるものだなんて思いもしなかった。
誕生日をおめでとうって祝ってもらえることが……こんなにも嬉しいものだなんて知らなかった。



